いじめは、学校だけと言われてきたのは昔の話で、今は職場でも様々ないじめ(ハラスメント)が表面化してきた。
今回は、この話題を取り上げたいと考える。
◆ハラスメントとは
ハラスメント(Harassment)いろいろな場面での「嫌がらせ、いじめ」のこと。その種類は多岐にわたり、他者に対する発言・行動等が本人の意図に関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることなどを指す。
もちろん、ハラスメントは職場だけでなく学校、地域社会、家族間でも発生する。どのような社会集団であっても暴力はもちろん、言葉や態度による嫌がらせ(嘲笑、噂の流布、大勢による無視)などがハラスメントに相当する。
厚生労働省統計の「令和元年度民事上の個別労働紛争相談の内訳」によれば、「いじめ・嫌がらせ」に対する民事上の個別労働紛争の相談件数が全体の25.5%を占めており「いじめ・嫌がらせ」の相談件数の中で、8年連続トップだった。
それだけ、年々深刻さを増しているように感じる。
◆職場のハラスメント
職場のハラスメントは、職場内の地位や人間関係などの優位性を利用して行われるハラスメントを指す。厚生労働省は裁判例などをもとに以下のパワハラの6類型を定義している。
・パワハラ類型1:身体的な攻撃
殴る、蹴るなどの暴行。物を投げつける、書類で頭をたたくなどの行為。
・パワハラ類型2:精神的な攻撃
「バカ」「辞めろ」など相手を傷つける言動、うわさ話の流布、人前で叱責するなどの行為。
・パワハラ類型3:人間関係からの切り離し
別室に隔離する、業務連絡を回さない、挨拶をしても無視するなどの行為。
・パワハラ類型4:過大な要求
異常に大量な業務、難易度の高い仕事ばかりを任せるなどの行為。
・パワハラ類型5:過少な要求
仕事を与えない、極端に簡単な業務のみ与えるなどの行為。
・ パワハラ類型6:個の侵害
相手の家族をけなす、恋愛関係に立ち入る質問をするなどの言動など。
なお、上記1~6がすべてのパワーハラスメントを網羅しているわけではない。上記に記載がない場合でも、冒頭に書いた通り相手を傷つける行為はハラスメントに相当することを理解しておく必要がある。
参考:厚生労働省 職場のパワーハラスメントについて
◆代表的な職場のハラスメント
実際に、職場においてはどのようなハラスメントが起こっているのか。
近年、日本社会ではさまざまなハラスメントが認識されるようになっている。職場で起こりがちなハラスメントをみていこう。
1 セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(略してセクハラ)とは、性的な嫌がらせのこと。例えば、職場にヌードのカレンダーを掲示する、性的な冗談を言う、身体に触れるといったものから、執拗に飲み会やデートに誘う行為も含まれる。
加害者自身は、セクハラと認識しておらず、コミュニケーションの一環として行っている場合も多々見受けられる。
セクハラの類型は、大きく「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に分類され、さらに「視覚型セクハラ」「発言型セクハラ」「身体接触型セクハラ」に分類される。
1-1 対価型セクハラ
相手に対して、性的な関係を求めたが断られた腹いせとして、例えば仕事を与えない・配置転換を行う・降格させるなどの行為がある。
1-2-1 環境型セクハラ 視覚型セクハラ
例えば、わいせつな雑誌を置く、パソコンのWEBサイトのいやらしい画像を見せる、ヌードポスターなどを壁に掲示する行為が考えられる。
1-2-2 環境型セクハラ 発言型セクハラ
例えば、彼氏・彼女はいないのかと尋ねたり、飲み会やデートへ執拗に誘ったりする行為、あるいは下ネタや性的な体験等の質問を行ったり、容姿について論評したりする行為も含まれる。
1-2-3 環境型セクハラ 接触型セクハラ
本人にとっては軽いスキンシップのつもりが、相手側からすればとても不快な行為だったりということも考えられる。例えば、不必要に肩や胸、太ももを触ったり、裸芸を強要したりする行為がある。
2 パワーハラスメント
パワーハラスメント(略してパワハラ)とは、一般的に職場内での優位性を背景に、上司が部下に対して行う嫌がらせ・いじめのことを指す。昨今は、同僚間や部下が上司に対して嫌がらせ・いじめを行う逆のケースも増えてきている。
また、パワハラについて問題となりそうな行為として、6つを挙げておく。
但し、パワハラとして問題となるのは、この6つだけではないという点に注意したい。
2-1 暴行や障害など身体的な攻撃。
2-2 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言など精神的な攻撃。
2-3 隔離・仲間はずし・無視など人間関係からの切り離し。
2-4 業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害など過大な要求。
2-5 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことなど過小な要求。
2-6 私的なことに過度に立ち入るなど個の侵害。
3 モラルハラスメント
モラルハラスメント(略してモラハラ)とは、身体的な暴力を伴わない精神的な嫌がらせ・いじめのこと。しつこく叱責したり、相手の人格を否定するような態度をとったりするのは、モラハラの典型的な例だ。
4 ジェンダーハラスメント
女性従業員だけにお茶くみをさせたり、「女性は早く結婚して、家庭に入るのが幸せだ」など発言したりする行為は、セクハラではなくジェンダーハラスメントと呼ぶ。
個人の能力や、特性を認めず「男だから、この程度の仕事ができるだろう」とか「女性は、会議で発言するな」など圧力を加える行為も含まれる。
性的な表現を含まない言動なので、男女雇用機会均等法における「セクハラ」には該当しないため、セクハラとは区別して認識する必要がある。
5 マタニティハラスメント
マタニティハラスメント(略してマタハラ)とは、女性従業員が妊娠や出産を理由に職場から嫌がらせやいじめを受けたり、左遷・解雇をされたりするハラスメントのこと。
例えば「上司に妊娠を報告したら、他の⼈を雇うので早めに辞めてほしいと言われた」とか「育児短時間勤務をしていたら、同僚から迷惑だと言われた」などは、典型的なマタハラ行為になる。
最近、男性従業員が妻の出産や育児を理由に職場で嫌がらせやいじめを受けるケースも増えており、これはパタニティハラスメント(パタハラ)と呼ばれる。
6 スモークハラスメント
たばこの煙が健康に与える影響が明らかになるに従って、受動喫煙が問題視されるようになった。
平成15年には、健康増進法が施行され、25条において受動喫煙防止対策の努力義務が規定された。
この場合は、マナーの問題もあるのでたばこを吸う人にとってはますます肩身が狭くなる。
◆まとめ
最後に、パワハラなどのハラスメントは、社員の退職、休職による戦力ダウンから職場の士気は低下し、人材流出のリスク、企業イメージ低下につながる。さらに、従業員から訴訟を起こされれば、会社は損害賠償責任を負う可能性もある。
企業としてのイメージダウンにつながるケースもあるだろう。
ハラスメントのない職場環境作りとして、研修等で指導しストレスチェックなどの制度を活用して職場環境の把握および改善を行い、従業員が安心して働くことができるように、対策を講じることが企業に求められている。
パワハラ防止の社内方針を明確に周知し、社内相談窓口を作るとともに、被害を受けた労働者へのケアや再発防止につとめることや、無自覚に行っているハラスメントが法に触れるケースがあることを理解してもらうことなど、今後は特に企業として予防・防止への取り組みが大切になっていくだろう。