・ひきこもりとは?
最初に確認したいのは、ひきこもりは病気ではないということです。ひきこもりとは、(自宅にひきこもることで)就学や就労、家族以外の他人との親密な対人関係を築かない状態が6ヶ月以上続いていて、その原因が精神疾患(障害)とは考えにくい状態像を示す言葉です。
自分の部屋に閉じこもっている方だけでなく、1人でならコンビニや映画鑑賞などに行けるような方でも、家族以外の他人との交流がなければ、ひきこもりと判断されます。
ひきこもっている家族がいることを対外的に公表していない家庭もあるため、国や自治体の調査によって統計データはまちまちで、正確な人数を把握することは難しいのが現状です。39歳以上のひきこもり当事者も含めると、100万人を超えるのではないかと考える専門家も少なくありません。
・ひきこもりが起きる原因とは?
ひきこもるきっかけとしては、成績の低下や就労の失敗、失恋やいじめなど一種の挫折体験が見られることがあります。内閣府の調査を見ると、病気や仕事・学業でのつまずきがひきこもりのきっかけになったケースが多いことが分かります。
・ひきこもり脱出の方法とは?
まず注意しておきたいことですが、すべてのひきこもりに「治療」や「支援」が必須というわけではありません。何らかの目的を持ってひきこもっている方、経済的・環境的にひきこもることが可能な状況にある方にまで、支援を押しつけることは間違いです。
しかし、多くのひきこもり当事者がひきこもり状況に苦しみ、脱出を望んでいることも事実です。また、ひきこもりによる長期の孤立状況は、心身にさまざまな悪影響をもたらすことには医学的な根拠もあります。
子どもがひきこもったら、家族はどう対応すればいい?
・当事者や家族に合った病院を探す
病院探しで参考にするといいポイントは、思春期事例(不登校など)を扱った経験があるか、両親だけの相談にも応じてくれるか、通院しやすいか、の3点です。
ひきこもり事例を見たことのある精神科医は多いとは言えません。ただ、不登校などの思春期事例を扱ったことのある医師は、ひきこもりの治療も可能な場合があります。また、ひきこもりの治療は年単位になることもあり、当初は遠距離でも頑張って通うことができたとしても、次第に辛くなってくることも考えられます。当事者が通うことになったときのことも考え、できるだけ通いやすい範囲の病院(クリニック)を選ぶといいでしょう。
近くに通えるような病院がない場合は、まずはひきこもり地域支援センターや精神保健福祉センターなどで相談してみましょう。特に、ひきこもり地域支援センターはひきこもりに特化した相談窓口であり、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士などが相談内容を基に適切な支援機関につなげてくれます。
・本人が安心できるコミュニケーションを心がける
家族がひきこもっている当事者と対応するときに心がけることは「安心してひきこもれる環境を作ること」です。家族は、現状をどうにかしようというあせりから、説教や説得、議論をしがちです。
しかし、もっとも危機感を抱いているのは当事者本人なのです。当事者にプレッシャーをかけることで、ひきこもりの悪化を招くことがあります。まずは当事者の話にしっかり耳を傾けて、考えを共有する姿勢を維持してください。
話しかけがぎこちなくても、当事者と話したい気持ちが伝わっていることが大事です。話題としては、ニュースの話や芸能界の話、ペットに関する話題などがいいでしょう。将来の話や学校、仕事の話、そして同世代の友人の噂話などは避けてください。
また、「親の育て方が悪くてこうなった」など両親への恨みや怒りを話し続ける場合もあるかもしれませんが、そういうときはさえぎらず、最後までしっかりと聞いてあげてください。内容の正しさは関係なく、「聞いてもらえた」という満足感を当事者に感じてもらうことが重要です。
・家族自身のケアも忘れずに
両親、特に母親は、ひきこもっている子どもに献身的に尽くし、自分の時間もなく疲弊しているケースがあります。これでは親子共倒れになってしまうので、まずは両親が社会との接点を持つようにしましょう。仕事や趣味などで外出し、自分の世界を持っておくといいでしょう。自身のリフレッシュになることに加え、ひきこもっている子どもに対して「外の世界には楽しいことがたくさんある」ことを身を以て示すことにもつながります。
また、ひきこもりの家族を持つ方々が悩みを共有してお互いに支えあう家族会の集まりや、ひきこもりに関する講演会や勉強会に参加すると、さまざまな事例を知ることができ、孤独が和らぎます。ひきこもりから脱出するまでは長い年月がかかることもあり、同じような悩みを抱える家族との連帯は非常に心強いものとなるはずです。
・ひきこもりの高齢化とは?
今や社会問題となっているのがひきこもりの長期化・高齢化です。いったんひきこもると自力で抜け出せる人は少なく、放置されることでひきこもりの期間が長期化する傾向があります。
KHJ 全国ひきこもり家族会連合会では2004年から 13 回にわたって全国の支部会会員に対する調査を継続的に実施していますが、回を重ねるごとに高年齢化が進んでいることがわかります。平均年齢は 2008 年に発表された調査において 30 歳を上回り、平均のひきこもり期間は 2011 年発表の調査で 10 年を超えていました。2016年実施の調査では、30歳以上が6割以上、40歳以上が2割以上を占めていました。
子どもが高齢化するということは、当然両親も高齢化するということを意味します。親は子どものひきこもりにおける有力な支援リソースであることが多いですが、親が高齢化することで、経済力も体力もなくなっていきます。すると子どもを支えることができなくなり、共倒れの危険性が出てくるのです。
・ひきこもりの子どもが高齢化した場合の対策は?
子どもがひきこもったまま高齢化したケースで、喫緊の課題となるのは経済的な見通しです。年齢を経るにつれて起きる両親の退職や病気などによって経済的な余裕がなくなっていく一方、経済的自立が難しい子どもの生活をどのように支援していくのか、対策を練る必要があります。
ここでは対策の一部として、遺言状の作成、障害年金の受給、生活保護の受給について紹介します。
・遺言状を作成する
子どもは、親亡き後も生きていかなければいけません。その手立てを探るために、遺言状の作成を通じて、子どもにもライフプランを考えてもらう機会を作ります。家族だけでは困難な場合もあるので、ライフプランの専門家であるファイナンシャルプランナーなどと相談しながら進めることをお勧めします。
まず、家族で資産や借金などを含めた家計の状況をありのまま共有しましょう。親が亡くなった後の経済的見通しについても話し合い、文字に残すといいでしょう。両親には両親の生活があり、扶養できる限界がある場合にはその期間についても説明する必要があります。ひきこもっている当事者を脅すのではなく、信頼した上で事実を直視してもらうということです。 その上で、以下で説明する障害年金や生活保護の受給についても選択肢として提示するのがいいでしょう。
・障害年金の受給
障害年金とは、障害や病気によって生活や仕事に支障が出た場合に支給される年金です。長年ひきこもっている状態だと、すぐに仕事について生計を立てていくというのはハードルが高く、就労したとしても十分な収入を得ることが難しい場合もあります。そういったときに、障害年金を受給しながら、自分の適応できる環境を探すという選択肢を選ぶことができます。
障害年金は若くても受給することが可能ですが、医師が、WHO(世界保健機関)が作成するICD(国際疾病分類)に掲載されている病気に該当するという診断を下すことが受給条件です。障害年金の受給を検討する場合は、医師に相談してみましょう。
障害年金や生活保護の受給を提案した場合、当事者は反発することもあるかもしれません。しかし、10年以上ひきこもっていることは、ひきこもっていない方と比べて相当なハンデを負っていることを自覚してもらうことも必要です。 この自覚をきっかけに、障害者手帳の取得やデイケア、就労移行支援などの福祉サービスへとつなぐ道を模索していきましょう。
・ひきこもりとその支援 まとめ
本人の力だけでひきこもりから脱出するケースは極めて少ないとされています。ひきこもりになるきっかけは他者との関係における挫折体験ですが、ひきこもりから脱出するきっかけもまた、他者とのかかわりによってもたらされるものです。
家族はひきこもっている当事者を安心させるような対話とコミュニケーションを心がけつつ、デイケアや自助グループ、就労移行支援など、社会との接点を少しずつ回復できるように働きかけてみてください。
そして、家族もまた悩みを抱え込まず、医師や専門機関、同じ環境にいる方々が集まっている家族会などの社会資源を有効活用しましょう。早期に外部とつながることで家族の負担も減り、解決のための行動の方向性も定まるでしょう。